植物本来の生命力がおいしさの秘密。
農薬や肥料を使わないサンキューファームの田芋
田芋とは水田で栽培される里芋の一種で、沖縄の伝統野菜のひとつ。親芋を取り囲むように小芋がたくさんつくことから、子孫繁栄の縁起物として沖縄の行事料理には昔から欠かせない食材です。主な生産地のひとつである宜野湾市大山で、先祖代々田芋を栽培しているのがサンキューファームの宮城優さん。宮城さんは、肥料や農薬を使わない「自然栽培」という農法で田芋づくりに取り組んでいる県内でもめずらしい田芋農家です。
「子どものころから、田んぼが遊び場だったんです。その頃はカエルや虫の鳴き声がいつも聞こえていて」と宮城さん。就職などで沖縄をしばらく離れていた宮城さんでしたが、大人になって久しぶりに田芋畑を訪れたとき、生き物の声がパタリと聞こえなくなっていたことに気づきました。「農薬や肥料を使うようになってからでした。同じ土地なのに環境が全く変わっていたんです」。生き物を殺してまで食べ物を作るの?という疑問と、これではいけないという思いを抱いた宮城さんは、帰郷後畑を継いだのを機に、農薬を使わない栽培方法をスタートさせました。
農薬を使わないということは、それだけ手間がかかるということ。雑草取りは最低でも2週間に一度、病気や害虫の被害がないかもこまめに確認します。冬に田んぼに苗を植え付けてから、収穫までの約1年、こうした作業がほぼ毎日続くのです。
「堆肥や肥料も使っていません。使えば田芋の成長は確かに早いし、もう少し早く収穫できて楽です。けど、過保護になるというか、強く成長しないんですね。うちの田んぼは肥料を使わないから、田芋自身が根を長く長く這わせて土から栄養を取り入れて蓄えようとする。だから、たくましい田芋になるんです」
泥の中で育つ田芋の収穫は、見た目以上に重労働。ねぎり棒という道具で、根っこや実を傷つけないよう丁寧に引き抜いていきます。また、田芋は蒸してみないと食べられるかどうか判断できないため、収穫後は大きな釜で蒸す作業も必要です。ただでさえ手間がかかる田芋栽培なので、出荷先に農薬や肥料を使っていないことを伝えると驚かれることも多いといいます。「でも、自分が作りたいものを作っているから。畑がとにかく楽しくて、365日毎日来てますよ」と笑顔で話す宮城さんからは、田芋への愛情がひしひしと伝わってきます。
自然栽培で育った宮城さんの田芋は、小ぶりながらも濃厚な味わい。栄養価の高い皮の部分も安心して食べることができるので、皮ごと素揚げにすると、その美味しさが存分に堪能できるといいます。
現在は後継者育成も視野に入れ、「農業で生計が立てられるように」と障害者支援センターなどに協力してもらいながら、収穫した農産物をパイやそば麺などに加工する6次産業にも力を入れています。また、消費者に食材の価値を理解して食べてもらいたいと、自主イベントや収穫体験なども積極的に行っているそうです。
手間はかかるけれど、本当においしいものを届けたい。サンキューファームの田芋には、そんな宮城さんの思いが込められているのです。