料理通信、「料理通信社」といただきました。沖縄食材の魅力!

制約が強さと工夫を生む。沖縄のパインアップルの新星「サンドルチェ」

『料理通信』の特集に「「小さくて強い店」は、どう作る?」というシリーズ10弾まで続く人気企画があります。内容は、お金がない、人手がない、空間が狭い、駅から遠い・・・など、制約がある状況でいかにして人気のお店・強い店を作り上げたか、店主の創意工夫を伝える特集です。

 

お金がないからDIYにした、人手がないから機器に投資した、知られていない料理だから気負わず自由に提供した、など制約を逆転の発想で強みに変えてきた店主たち。制約から工夫が生まれて商品やサービスの質が強くなる――そんなことに気づかせてくれる企画です。

 

沖縄のパインアップルの話を聞いた時、厳しい環境によって変化を求められた果物なのだ、と思いました。一般的には作物の育ちにくい酸性土壌、台風の常襲地域、戦後の貿易自由化などにより、台風に負けない強さと、加工用の価格競争で戦わないための、生食のおいしさを磨く必要に迫られました。

 

2017年、パインアップル界の新星として「沖農P17」が新たに品種登録。商標「サンドルチェ」を取得し、ブランド化を図っています。「SUN(太陽)」と「Dolce(甘い、甘美な)」を組み合わせた造語で、その名の通り糖度が約19度と高いのが特徴です。

 

農家と研究所の二人三脚で15年。

「もともと沖縄のパインアップルは缶詰加工用が主だったのですが、輸入自由化がきっかけとなり、生食用パインの開発が活発化しました」と語るのは、沖縄県農業研究センター名護支店 果樹班 主任研究員の竹内 誠人さん。大学時代からずっとパインアップルの研究に時間を注いできた方です。

 

沖縄でパインアップルが作られてきた理由は2つあります。
1つは酸性土壌でも栽培がしやすいこと、もう1つは台風被害に比較的強かったことです。

 

1950年〜1960年代にかけてはパインアップルの缶詰加工業が発展し地域経済を支えていました。しかしほどなくして、貿易自由化の波がやってきます。まず、1961年に生果が、1971年に冷凍果実が、1990年にはいよいよ缶詰が輸入自由化。缶詰加工業が下降するなかで見出した活路が生食用パインアップルでした。

 

「サンドルチェは、これを作ろうと思ってできたものではありませんでした。目指したのはとにかく、おいしいパインを作ること」と竹内さん。農業研究センターではこれまでも研究者と生産者が協力し6種の生食用品種を送り出してきました。

 

農業研究センターでは様々な品種のパインアップルが栽培されています。
そもそも、農業研究センターの役割とは?

「私たちには育種目標があります。おいしい味の果実を作ること。糖度が高く、酸度が低いものが好まれます。そして、病気が出ないことや農家さんが栽培しやすい特性をもつ個体を探すことです」

 

交配から採取に1年、播種から育苗に1年、その後の2年~7年が選抜期間。品種登録までにはおよそ15年かかります。農業従事者の減少や高齢化に直面し、これからも農家がパインアップルづくりを続けられる道を探したい。作る人に負荷はかかりすぎないか? 作ったものがきちんと売れるか? おいしい状態をそのまま食べ手に届けられるか?

「流通に向かず拡大が難しいもの、おいしいけれど苗がでにくく収穫回数が少ないもの、栽培はしにくいけれどよく売れるもの、品種ごとに良い点と課題があり様々です」

 

2018年には例年以上に日本に上陸した台風。沖縄のすさまじい爪あとが報じられますが、街や家屋だけでなく、農作物へのダメージも過酷です。「サンドルチェ」は台風に強いという特徴もあります。

「実を支える果柄(かへい)が短く、葉が硬い。つまり、台風被害から自らを守る力が備わっている品種になりました。加えて、苗が出やすく、トゲが少ない。トゲが少ないことはそのまま農家さんの収穫のしやすさに繋がります」

 

 

国産パインアップル=沖縄県

国内に出回っているパインアップルのうち約95パーセントが輸入で、国産はわずか5パーセント。そしてそのほぼ全てを沖縄県が担っています(農林水産省のパインアップルの統計データは、沖縄のみの数字で集計されています)。

パインアップルはまさに、沖縄の気候風土が育てた沖縄らしい果物なんですね。

 

トマトが甘くなり、ピーマンが苦くなくなり、食べやすい半面、昔の味と違うと言う人もいます。「パインアップルは?」と聞くと、「消費トレンドとしては甘いものが好まれます」とのこと。でも・・・。

 

「沖縄のお年寄りはサンドルチェを食べるとこんなことを言います。甘すぎてもいかん! 酸味と甘みのバランスが大事なんだ!って(笑)。つまり、とても甘いです」。

 

酸度は低い(甘味を感じやすい)けれど、爽やかな香気をもつため食べ飽きないサンドルチェ。通常パインアップルの収穫期は5月~9月ですが、良食味期間が10月までと長いため秋まで楽しむことができます。2018年の流通数は5,000玉、これから作付け面積を増やしていく予定です。(サンドルチェのブランド商標使用可能期間もこの良食味期間の10月までと現在のところ設定されています)

 

最後に、プロたちから食べ方のコツを2つ教わったのでご紹介します。

 

1)すぐ食べる
「パインアップルは追熟をしない果物です。置いていても糖度が上がることはありません」
一番おいしいのは果実を採った直後だそう。売り場に並んでいる時が食べごろなので、できるだけ、すぐに、食べましょう。

 

2)保存はカット後に
「実のまま置いておくより、カットして冷蔵庫に入れておく方が良い状態で保存できます。実のままだと生きている状態なので、酸度がどんどん上がっていきます」
すぐに食べられない場合は、カットして密閉容器に入れて冷蔵庫保存、がオススメだそうです。

 

果樹班 研究員の大嶺悠太さん(右)も一緒に。二人とも畑に出ているので真っ黒に日焼けしていました。

料理通信

浅井 裕喜の写真

株式会社料理通信社 広報担当

浅井 裕喜(あさい ゆき)

食情報を伝えるメディア、料理通信社の広報担当。Facebookやtwitter、instagramなどSNS公式アカウントの“中の人”でもあり、読者やファンの声を拾いながら密なコミュニケーションを図る。

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料理通信社

食のオピニオンリーダーたちのアンテナを刺激する雑誌『料理通信』の刊行、“食で未来をつくる・食の未来を考える”をテーマにしたWEBサイト「The Cuisine Press」、食を取り巻く社会課題に向き合うアクションを行う活動体「or WASTE?」を運営。

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