南国で育つおいしいいちご
その可能性にかけ奮闘する、ばむせファーム

冬から春にかけて旬を迎えるいちごは、老若男女に愛される果物の一つ。主に栃木県や福岡県が有名な産地として知られていますが、ここ沖縄県でも生産されているのをご存知でしょうか?沖縄本島の北部と中部の境目に位置する宜野座(ぎのざ)村では、「沖縄にない作物を作り、地域農業の振興に繋げたい」と2003年からいちごの栽培をスタートさせました。今では宜野座村はいちご生産が盛んな地域として県内での認知度も高まり、2018年に「いちごの里、宜野座村」を宣言し、産地化に向け精力的に取り組んでいます。さとうきび畑が連なる宜野座村のどかなエリアの一角で、いちご栽培を手がけているのがBamse Farm(ばむせファーム)です。
ばむせファームで栽培している品種は主に5種。実が大きくて、甘さと香り高さが特徴の「かおり野」、実が硬めで糖度の高い「かんな姫」、いちごらしい酸味が特徴でビタミンCが一般的ないちごの倍以上ある「おいCベリー」、そのほかにも「よつぼし」や「あまえくぼ」などを生産しています。

 

栽培を手がけるのは、妻鹿晋介(めが しんすけ)さん。10年前に和歌山県から移住し、林業からいちご農家に転身しました。
「沖縄で農業をするなら、なんとなくマンゴーやパインアップルといった熱帯果実を考えていたのですが、土地の特徴やハウス栽培について調べる中で、宜野座村がいちごの栽培に力を入れていることを知ったんです。沖縄でも人気の高いいちごですが、そのほとんどが空輸や船便で本土から届いたもの。地元での生産が安定化すれば、県内の方々にもその土地で育った新鮮ないちごを安価で楽しんでもらえる。そこに将来性を感じて飛び込んだんです」
それから2年間、村の後継者育成センターでいちご栽培について学んだのち、村がリースしている畑でいちごづくりを始めました。
「九州であまおうなどの品種を開発した先生を招いて沖縄でのいちご栽培について教わる機会があるのですが、九州で成功した事例が沖縄でうまく行くかといったらそうではないんです。壁に当たることが多いですが、それでもやればやるほど奥深さを知って、面白くなってきましたね(笑)」
いちごの生産に取り組み、今年で7シーズン目に入りますが、常に試行錯誤の連続だといいます。

 

ばむせファームは、観光農園としていちご狩りや農場での直売を主軸にしています。取材に訪れたこの日は、今期のいちご狩りの開幕初日。
「まだシーズンが始まったばかりなので不揃いですが、2月にはここが一面真っ赤に色づいたいちごで埋め尽くされるんですよ」と妻鹿さん。本土では11月〜5月が一般的なシーズンですが、沖縄県では1月頃から始まり、4月上旬まで楽しむことができます。

 

一般的に暑さが苦手といわれるいちごですが、沖縄ではどのように栽培しているのでしょうか。
「いちごの生育は25℃くらいが適温で下は8〜10℃までといわれています。冷えすぎると休眠してしまうので、本土ではビニルハウスの中を空調で温めるのが一般的なんです。でも沖縄ではその必要はありません。逆に冬でも25度を超えることがあるので、温度が上がりすぎないようにハウス内の環境調整が大切です」
妻鹿さんをはじめ県内のいちご生産農家が採用しているのが、目線の高さで作物を育てる方法。地面から伝わる熱の影響やいちごが擦れて傷ついてしまうのを防ぎます。気温の高い日は、ビニルを巻き上げてハウス内の空気の循環を良くしたり、水やりを調節するなどして、ハウス内の温度が上がりすぎないようにするため気が抜けません。また、温暖な環境では病気や害虫にも注意が必要なのだといいます。
「病気から守るために消毒を行うこともありますが、なるべく必要最低限に抑えています。また、葉の裏に寄生するハダニなどの害虫には捕食してくれる虫を取り入れるなど、安全な方法でいちごに影響のないようにしています」。

 

いちごづくりで特に根気がいるのが、意外にも苗づくり。冬の終わり頃、親株から伸びたつるを切り離して一つひとつポットに植えて育て、次のシーズンに備えます。まだ若い苗はデリケートで病気にかかりやすいため、細心の注意を払いながら日々健康状態をチェック。9月中旬頃、育った苗を植えつけし、蕾や花が咲き始めたら手作業で丁寧に間引きしていきます。ハウス2棟分の気の遠くなるような作業ですが、ようやく収穫を迎えた時には喜びもひとしおだと話す妻鹿さん。
「気温が徐々に下がっていくのに比例していちごも赤く色づき糖度が上がりますが、沖縄の場合は急に寒くなることもあり、赤くなっても味が付いてこない場合もあります。また、太陽が出ないと生育に影響が出やすいので、やはりどんな肥料よりも太陽光を浴びて光合成をすることがいちごにとって一番大事だと思います。天候には身を任せるしかないですが、風通しや水の量を調整するなど、なるべく好条件で光合成できるように尽くしています」。

 

「おいしいのは大前提。その上で安全で栄養価の高いいちごを作っていきたい」。
そんな思いから、妻鹿さんは定期的に農家同士で集まって有機農法の勉強会に参加しているそう。手がけている作物はそれぞれ違いますが、土作りから植物生理まで勉強する内容は多岐に渡ります。
「土にはビール粕を混ぜ込んでいるんです。時には酵母菌や納豆菌を加えることも。そうして土を発酵させることで土壌中のミネラル分のアップに繋がります。例えばマグネシウムが不足すると葉の色が悪くなったり、鉄分が多いと実の色づきが良くなるなど、人間と同じように作物にとっても栄養バランスが大事なんですよね」

 

現在ばむせファームでは、沖縄のいちごをできる限り楽しんでほしいという思いから、6次産業化を進めています。2021年は加工所を建設してジャムやピューレなどの加工品を作ったり、夏場はかき氷の販売も計画しているそうです。
「同じシーズンでも冬場と春先とではいちごの味わいが違うのもおもしろいところ。畑を訪れることでそういったことも知ってもらいたいですし、なによりその土地で育ったいちごを新鮮な状態で味わってほしいんです。いちご狩りや直売を通して、育てた作物が消費者の手にわたるところまで関われることが嬉しく、やりがいにも繋がっています。だからこそ、もっとおいしいいちごを作りたい。技術的にもまだまだ課題はありますから、日々研究ですね」と妻鹿さん。さらに今後は、食育として地元の小学生を招いて生産現場の見学を行うなど、いちごを通して地元に恩返しをしていきたいと話してくれました。
日々丁寧にいちごと向き合う姿勢が、沖縄のいちごをさらに良くしていく。ばむせファームの挑戦は続きます。