新たなヘチマ「美らへちま」を開発当初から栽培

ヘチマは、中国やインドで古くから栽培され、江戸時代前期に沖縄に伝来しました。本土ではタワシ等の日用品として使用されることが多いですが、沖縄では家庭料理の定番食材として親しまれ、夏野菜としてみそ汁や炒め物などによく利用されています。

 

在来ヘチマは、形が不揃いで加熱後に果肉が黒くなるなど、特に飲食店での使用に課題がありました。この課題を解決するため、沖縄県農林水産部農業研究センターが2013年から新品種育成に取り組み、2022年に「美らへちま」として商標登録されました。

 

美らへちまは、1本約300グラム、長さ約20センチメートルの均一な円筒型で、最大の特徴は加熱後も果肉が褐色にならないことです。従来ヘチマより食味が良く、果皮の色も濃いのが特徴です。果実と果肉の硬度が高く、カット後の冷凍保存も可能なため、調理や輸送面で大きなメリットがあり、活用の幅が広がることが期待されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

低農薬にこだわる品質の高い美らへちま

 

八重瀬町の東風平朝和さん・朝敏さん親子は、美らへちまの開発当初から栽培に協力しており、低農薬にこだわったハウス栽培を行っています。従来のヘチマは朝に収穫しないと黒くなることが多かったのに対し、美らへちまは変色を抑えられるため収穫がしやすいと、その魅力を語ります。

 

ハウスは3重の網で入り口を覆い、湿度管理、雨除け、害虫対策を徹底しています。さらに、ハウス内に害虫を寄せ付けない草花を植えるなど、自然の力を最大限に活用する工夫を凝らしています。

 

美らへちまの栽培方法は従来のヘチマとさほど変わりませんが、その管理には生産者の細やかな配慮が必要です。ヘチマは花が咲いてから約2週間で食べごろになるため、太陽光が全ての実に均等に当たるよう、手作業で丁寧に葉を摘んでいきます。約2週間後の収穫時期には一斉に実が成熟するため、この手間ひまかけた管理や迅速な収穫対応が、美らへちまの高品質を支えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

収穫作業においても、美らへちまの特性が生産者にメリットをもたらしています。

 

果実、果皮ともに硬度が高いため傷がつきにくく、収穫や梱包の作業負担が軽減されています。東風平さん親子も、従来のヘチマと比べて梱包時の傷つきにくさは大変助かる特徴であり、生産効率の向上と品質の安定につながっていると評価しています。

 

従来はハウス栽培で10月に植え付け、12月から6月の冬春期出荷をしていましたが、最近の研究から、露地栽培でも品質が維持できることがわかり、今後は夏場の露地栽培も可能となることで、年間を通じた生産が見込まれます。

 

美らへちまの普及は沖縄の農業に新たな可能性をもたらし、農家の収入安定化にもつながることが期待されています。

 

 

「ヘチマ」と「ナーベラ―」の名前の由来

「ヘチマ」と「ナーベラ―」この呼び名の由来には諸説ありますが、朝敏さんより興味深いお話を伺うことができました。

「ヘチマ」は漢字で「糸瓜」と書きます。その呼び名の移り変わりは「イトウリ→トウリ→ト」と言われており、昔は単に「ト」と呼ばれていたそうです。面白いことに、「ト」は言葉遊びを好む人々が「いろは歌」のへとチの間にあることから、「ヘチ間(ま)植えた?」と冗談を言ったことが、現在の「ヘチマ」という呼び名の由来になったという説もあるそうです。

一方、沖縄方言でヘチマは「ナーベラー」と呼ばれています。その一つに、ヘチマのタワシで鍋を洗っていたことから「鍋洗い→ナーベラー」に変化したという説があります。

これらの言葉の由来から、ヘチマが日本の文化や沖縄の日常生活に深く根付いていたことが想像されます。

 

ヘチマ農家がおすすめする美味しいヘチマ料理

 

ヘチマに関する豊富な知識を持つ朝敏さんに、ヘチマの美味しい食べ方を教えてもらいました。

朝敏さんによると、ヘチマを加熱調理すると「ドゥー汁」と呼ばれる野菜本来の水分が出てくるそうです。このドゥー汁にヘチマの甘みが凝縮されており、これを活かすことで美味しく味わえるとのこと。特におすすめは、ヘチマの炒め物「ナーベラーンブシー」で、ご飯と一緒に食べるのが最高だと朝敏さんは熱く語ります。

また、ナーベラーンブシー以外の調理法として、茹でたヘチマを冷水で締め、酢味噌につけて食べる方法も紹介してくださいました。このような調理はヘチマの持つ本来の美味しさを最大限に引き出すことができるようです。

 

▶おきレシ:「ナーベラ―ンブシ―」の作り方

https://www.okireci.net/recipe/555/

 

▶おきレシ:「ナーベラ―の酢味噌かけ」の作り方

https://www.okireci.net/recipe/551/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖縄県の伝統的農産物(島野菜)のひとつ、ヘチマ。

新たな品種として「美らへちま」は、沖縄の新たな可能性を秘めていますが、現在、生産面で課題があり、生産者の高齢化や人手不足により、飲食店などからの需要に十分に応えられていない状況です。

生産者、消費者、そして地域全体が一体となって、美らへちまをはじめとした島野菜の未来を支えていくことが、沖縄の農業の新たな可能性を切り開く鍵となるでしょう。