おいしい野菜を無駄なく販売 大城夫婦が育てるヘチマの新たな可能性
沖縄本島南部に位置する南風原(はえばる)町は、津嘉山完熟カボチャやヘチマの産地として知られています。食用ヘチマの生産量はなんと日本一。ヘチマは沖縄の夏野菜で、ミネラルやビタミンを豊富に含み、みずみずしい口当たりの良い食感が特徴です。
ナーベーラーンブシー(ヘチマの味噌煮)は、沖縄料理の定番。7月頃からヘチマ畑一面に黄色い花が咲き始め、収穫は秋まで行われます。町内にある大城野菜生産農園加工所では、夫の大城恭彦さんがヘチマとカボチャを栽培し、妻の清美さんが主に規格外の野菜を加工して、商品にしています。
「ヘチマは台風対策のために地植えで育てています。風で葉っぱが飛ばされてしまっても、20日ほどでまた生えてきて持ち直すので、台風が来てもネットをかけません。ヘチマって強いでしょ?」と教えてくれた恭彦さん。ヘチマは成長がとても早く、収穫のタイミングが少しでも遅れると、大きくなり過ぎてしまい、お客さんの手に渡る頃には繊維が多くなってしまうそう。そのため恭彦さんは、収穫する頃合いの実がないか毎日畑の中をくまなくチェックします。
たくさんの葉が生い茂る畑の中で、恭彦さんが手に持ったのは、なんとバドミントンのラケット。「ヘチマは衝撃に弱く、丁寧に扱わないとすぐに黒ずんでしまうので、ラケットで葉の上からそっと押さえて実が成っていないか確かめるんですよ」。おいしい野菜を育てるために、様々な工夫が施されています。
「野菜を育てる上で規格外の作物が必ず1割はでてきます。味は変わらないのに捨ててしまうのはもったいなく、どうにか活用できないかと思いました」と清美さんが加工を始めたきっかけを話してくれました。最初は加工会社にカボチャの粉末やペーストを作ってもらい販売していたそうですが、県が実施する「アグリチャレンジ普及推進事業」に参加したのを機に一念発起。講習会に参加して加工について学び、必要な資格を取得して自ら加工所を設立したのです。
「私達の加工所ではカボチャのスープやジャムを作っていますが、商品を作るためには一次加工の技術が大切です。野菜を適切に加工して真空パックにし冷凍することで、旬のおいしさや風味を損なわずに長期保存ができるんです」。質の高い野菜加工品を作るため、清美さんは殺菌から皮むき、カット、アク抜きの煮沸など、野菜の一次加工に必要な工程を手作業で丁寧に行っているのです。
2018年に発売した831(やさい)ジャムは、カボチャ・ヘチマ・トマトの3種類。納得いくものが出来上がるまでに何年もかかったという逸品で、特に苦労したのがヘチマだったそうです。「8年前、沖縄県農林水産部南部農業改良普及センターと沖縄県立南部農林高校でヘチマの食べ方を考える授業があり、ヘチマのジャムを作ってみたんです。改良したら商品にできるかもと思ったのがきっかけでした」と清美さん。
ヘチマの収穫時期が来るたびに色々な方法でジャムを作り、時には試食会を行って、お客さんの声も参考にしたそう。しかし、完成目前までは行くものの、これだ!という味に中々辿りつけなかったといいます。「悩んでいた時、知り合いの農家からたまたまパッションフルーツをもらったので、加えてみたんです。すると、ヘチマ独特の風味をフルーツの甘酸っぱさが包み、フルーティーな味の後にヘチマの優しい甘さが残って、ぴったりとはまりました」。こうして完成したヘチマジャムは、綺麗な緑色の見た目に爽やかなフルーツの酸味も相まって、試食の際にはお客さんから驚かれることも多いといいます。
「私達が作る商品は、栽培から加工まで全て手作業です。手間暇かけてこだわって作っているので、ぜひ食べてみてほしいです」と清美さん。生産者である恭彦さんを支えながら清美さんは新たな商品開発のアイデアを日々模索しています。
「身近にある野菜で、商品化できていないものがまだまだあると思います。今は自社のホームページを持っていませんが、ゆくゆくは自分で商品の発送までしたいです。また勉強会への参加が必要かも(笑)」。大城野菜生産農園加工所はこれからも夫婦二人三脚で、南風原で大切に育てた野菜のおいしさを多くの人に届けていきます。
■大城野菜生産農園加工所
TEL:090-6867-5251