1本ずつ折れないように大切に収穫。
沖縄の伝統的な島野菜「島にんじん」を継承していくために
沖縄では28種類の「島野菜」が作られており、沖縄の伝統的な食文化の中で戦前から親しまれてきました。沖縄本島中部に位置する中城村は、伝統的な島野菜のひとつである「島にんじん」を特産品としており、島にんじんの普及と消費拡大に加え、次世代への継承を目的として、GI(地理的表示保護制度)の申請をし、2024年3月に登録されました。GI登録をきっかけとして、県内外で「島にんじん」が改めて注目されつつあります。
※GI(地理的表示保護制度)とは
地域で育まれた伝統と特性を有する農林水産物・食品のうち、品質等の特性が産地と結び付いており、その結び付きを特定できるような名称(地理的表示)が付されているものについて、その地理的表示を知的財産として国に登録することができる制度です。
島にんじんは鮮やかな黄色の根色とごぼうのような細長い形状が特徴です。ほのかな甘みと独特の香りをもち、眼精疲労や体を温める効果のあるカロテン、ビタミンA、ビタミンCを多く含むほか、カリウム、鉄分、抗酸化作用を持つリコピンなどは西洋ニンジンより豊富に含んでおり、沖縄では古くから薬膳料理「命薬(ぬちぐすい)」として、重宝されてきました。また、島にんじんはほとんど農薬を使わずに栽培されており、減農薬野菜でもあります。
中城村は温暖な気候と豊富な地下水により、栽培適温が15℃以上で十分な水分を必要とする「島にんじん」の栽培に適した自然条件を有しています。戦前から自家採種により系統を維持した在来種の栽培を継続し、現在では「島にんじん」の県内最大の生産量を誇ります。
島にんじんは夏の暑さが続く7月下旬から10月にかけて播種を行います。播種から約100日で収穫となりますが、質の良い島にんじんを収穫するため、播種から約1ヶ月後に間引きの作業を実施し、そこから約2ヶ月で収穫となります。
中城村の島にんじん農家である新垣一照(あらかきかずてる)さんは、「7月頃から作付の準備を始めますが、夏の暑い間に播種・間引きを同時に行うため、天候も相まって非常に大変です。また、この時期は台風シーズンでもあるため、先々の天気も確認しながら作業を行う必要があります。近年はゲリラ豪雨なども多く、畑が水につかってしまうと、せっかく蒔いた種もだめになってしまうため、苦労して育てても収穫までたどり着かないこともあります。」と話します。
さらに、「収穫時は村から収穫機械(ユンボ)を借りることで土の掘り起こしは行うことができますが、掘り起こした土から島にんじんを拾い上げる作業は手作業で行わなければなりません。また、収穫前に雨が降ってしまうと土壌が粘土化してしまい、ユンボを使うことができなくなってしまうため、1本ずつ重くなった畑から専用のスコップを使って手作業で掘り起こさなくてはなりません。」
このように、収穫までの大半を手作業で行わなければならない島にんじんは、農家さんたちが手間暇をかけて大切に育てられているのです。
さらに、島にんじんは収穫したあとの保管にも気を遣います。「島にんじんは水分に弱く、光が当たることで「緑化」してしまうため、水洗いのあとはしっかり乾燥させて、光が当たらないように毛布などを被せて保管しています。太陽の光だけでなく、蛍光灯の光でも緑化してしまうため、鮮やかな黄色のまま皆様のもとに届くように気を付けながら作業しています。」
中城村では緑化防止フィルムの研究・普及を進めており、中城村から出荷する規格品については、緑化の進行を抑止する効果のある統一のフィルムに入れて出荷しています。
島にんじんの年間の生産量は毎年50万トン程度ですが、2024年度は夏の猛暑と秋の長雨のため、例年の7割程度の収穫を見込んでいます。現在の中城村内の島にんじん農家は40戸ほどですが、農家の高齢化もあり、島にんじんの普及・消費拡大のためには、次世代への継承が不可欠です。
中城村では、毎年12月12日を「中城村島にんじんの日」と制定し、村を中心とした消費拡大と次世代への継承を推進しています。中城村島にんじんの日には、島にんじんの無料配布、中城村島にんじんの日にあわせて開催する「島にんじんウィーク」では、村内の店舗で島にんじんを使ったメニューの提供や加工品の販売を行い、島にんじんに触れる機会を創出しています。
また、村内の学校で島にんじんの栽培体験として、種まきから収穫までを体験することや、調理教室なども実施し、未来を担う子どもたちに島にんじんの魅力を伝える取り組みを実施しています。
沖縄の伝統的な島野菜のひとつである島にんじん。島にんじんをはじめとする沖縄の伝統的な島野菜を普及・継承することが、うちなーんちゅが紡いできた歴史や文化を、次世代へつなげていく一翼を担うことを期待せずにはいられません。 (1995文字)