国頭から届ける、 “命の豚”。
イノブタにかけた農業生産法人アンビシャスの思い
提供/農業生産法人株式会社アンビシャス
「やんばる」と呼ばれる沖縄本島北部は、亜熱帯の森が広がる自然豊かなエリア。その本島最北端に位置する国頭村でイノブタのブランド豚「くんじゃん命豚(ヌチブタ)」を生産しているのが、農業生産法人株式会社アンビシャスです。
イノブタとは、イノシシと豚をかけ合わせた品種で、国頭村の特産品のひとつ。社長の玉城吉夫さんは、約14年前に国頭産のイノブタに出合い、そのおいしさに感動したそう。それから「国頭村の一大特産品にしたい!」という夢を抱き、2008年に村内の生産者のもとでイノブタの生産を学びながら飼育をはじめました。
そして自ら開発したのが「くんじゃん命豚」です。国頭村の山中で育った野生のリュウキュウイノシシと豚のデュロック種を親に持つイノブタに、さらにリュウキュウイノシシをかけ合わせた品種で、現在は約3000坪の広大な牧場でおよそ200頭を飼育しています。
提供/農業生産法人株式会社アンビシャス
「沖縄の人の健康は昔から豚によって助けられてきた。社長はそうお年寄りに教わったそうです。食は身体と精神をつくる大事な要素。だからこそ可能な限り安心・安全で、おいしい食材を届けることを使命にしています」と話すのは、社長・吉夫さんの娘で「デリカテッセンヌチブタ」の店長を務める玉城七星さん。
アンビシャスでは、放牧でイノブタを飼育していますが、始めた当初は、子どものイノブタを襲ってくるカラスの対策や、放牧であるゆえ成長に個体差が出てしまうこと、自然交配が思うようにうまくいかないことなど、数々の困難に直面したといいます。それでも、安心安全のためにもできるだけやんばるの自然に近い環境で育てたい、そして「やればきっとおいしくなるはずだ」との思いから、必死にイノブタと向き合い試行錯誤を続けてきました。
毎日太陽の下でのびのびと走り周り、放牧地に自生する草や薬草などをうんと食べ、開放的な環境で育ったイノブタは、ストレスが少ないため肉質が良く、脂身はさらっとしていて肉の旨味はぐっと濃い、味わい深いおいしさになるといいます。
(デリカテッセンヌチブタの店頭)
飼育期間は12~14ヵ月と一般的な豚の倍以上、年間の出荷数は約80頭と、生産にはとても手間暇がかるイノブタ。精肉だけではなかなか安定した利益に繋がりにくいことに加え、自分たちの手でこだわって生産したヌチブタの良さを消費者に直接届けたいという思いから、生産・加工・販売まで一貫して行う6次産業化に乗り出し、2016年にヌチブタを使った料理が食べられる飲食店をオープン。現在は沖縄本島中部に位置する沖縄市の複合商業施設、プラザハウスショッピングセンター内に「デリカテッセン ヌチブタ」として店を構え、沖縄産の本格的なシャルキュトリーを販売しています。
定評のあるシャルキュトリーを作るのは、フレンチシェフとして40年以上のキャリアを持つ富盛清次さん。立ち上げ当初からメニュー開発に携わってきた富盛さん曰く、イノブタは、豚とイノシシの良い特徴が合わさっており、脂身の甘みや赤身肉の濃い味わいは他の肉では味わえないそうで「はじめて食べた時は衝撃が走った」と、未知の食材に出合った感覚だったといいます。
ヌチブタを100%使ったソーセージやパテをはじめ、あぐー肉や県産豚と合わせてより親しみやすい味わいに仕上げたプレスハムなど数々の人気商品を生み出してきた富盛さん。店頭には、紅麹の香りが肉の旨味を引き立てる生ハムや、タンやコブなどの希少部位を使用したいろいろな食感が楽しめるサラミなど、ここならではの商品も並びます。「肉の配合バランスが難しかったのですが、素材の良さを活かすために何度も何度も試作を重ねました」と話すその眼差しからは、ヌチブタの魅力に惚れ込み、食材の可能性を深く探る努力が伺えます。
どれも、できる限り添加物の使用を抑えたもので、手間と愛情をかけて作り上げています。シャルキュトリーの他にも、ヌチブタを気軽に食べてもらえるようにと、ハンバーグやミートローフなどのお惣菜も多く扱っています。
店長 玉城七星さん
「アンビシャスでは、環境を大切にしたいという考えから循環型農業にも取り組んでおり、今年の夏からイノブタの糞を肥料にした無農薬の野菜や果物の栽培をしています。今後は、無農薬野菜とお肉をネット販売し、県外の方にもおいしい食材を届けたいです」と店長の七星さん。また、近い将来「食の大切さ」を伝える生産現場の見学ツアーの開催も目指しているといいます。
“命の豚”と書くヌチブタには、「命をいただく」ことに感謝する心や、食のありがたさ、命を大切にすること、そんな思いが込められています。人間の健康を作るのは「食」であること、その深い意味をヌチブタを通して伝えたい。これからもアンビシャスの挑戦は続きます。