柔らかい食感に香りの良い生しいたけ
「100%沖縄県産」を目指す生産者たち
今、沖縄県では、県産きのこの消費拡大に向けてのPR活動が盛んです。肌寒い冬の時期、お鍋や炊き込みごはんに入れると美味しいきのこですが、どのように栽培されているかご存知でしょうか?一般的には丸太を使った『原木栽培』が知られていますが、資源となる木が県外と比べて少ない沖縄では、おがくずと栄養素を混ぜて作られた、ブロック状のもの(菌床)で栽培する『菌床栽培』が主流です。菌床作りには高度な技術が必要なため、生産しているところは県内で数箇所しかありません。その中のひとつ、沖縄本島南部の八重瀬町にある南ヒラタケ生産組合では、あらげきくらげやあわびたけと呼ばれるきのこをはじめ、しいたけの菌床の生産、栽培も行っています。
工場におじゃますると、おがくずを袋づめする作業の真っ最中。菌床を作るためには、まず、おがくずなどに元々入っている菌を6時間かけて釜で完全に殺菌。次に無菌室できのこの種菌を打ち込み、常に約20度に設定された涼しい培養室で、種菌の成長を待ちます。「しいたけの菌床は培養室で1ヵ月半ほど置いて、契約している生産者の方へ運ばれた後、芽が出るまでさらに1ヵ月半待ちます。とても時間がかかる子なんです」と話す代表の本部強さんは、この業界に入って30年以上のキャリアを持っていますが、現在でも菌床づくりに関しては新しい発見が多くあると言います。
「菌は生き物でとても繊細なので、毎年変化する天候やおがくずの原料となる木の種類でも菌床の状態は変わり、その都度調整が必要なんです。また、おがくずの代用として県内で豊富にあるバカス(さとうきび)が使えないか、今後試したいと思っています。常に勉強ですね」
「一般的に菌床は県外や海外で作られたものでも、栽培地が沖縄であれば、そのきのこの産地は『沖縄県産』になります。原料となる木材が豊富な県外の菌床は、県産と比べて安価ですが、自分たちはどんなきのこを提供していきたいかと考えた時、しいたけの畑とも言えるおがくずも、県産のものにこだわった菌床を作ろうと思ったんです」と本部さん。そのきっかけとなったのが、しいたけを栽培している名護朝敬さんとの出会いでした。
そこで、お話を聞きに沖縄本島北部の今帰仁村にある有限会社ドリーム企画を訪ねてみました。
「他の人がやっていない新しいことに挑戦してみたい」と話す代表の名護さんは、林業の知り合いから誘われたのを機にしいたけの栽培を始めました。「当時は地元で菌床を作っている人がいたのでそこから仕入れていましたが、栽培を始めて4、5年目に収穫量がガクッと下がったんです。その時、菌床について、生産者である自分が何も知らないことに気づきました。と同時に、それに対して不安にもなったんです」。
それから研究機関や専門家などを訪ねては収穫量が下がった原因を調べたそうですが、はっきりとした答えを見つけることはできませんでした。そこで名護さんが相談に行ったのが、きのこの栽培で豊富なキャリアを持つ本部さんのところでした。
「本部さんは職人気質で、がーじゅー(頑固)だと聞いていたので、ドキドキしながら伺いましたが、ちょうど本部さんたちも『何か変えなきゃいけない』と思っていた時期で、耳を傾けてくれました」。研究熱心な名護さんの熱意が届き、二人は100%沖縄県産のもので、安心安全な地産地消のしいたけを確立していこうと、約束を結びました。
「それからはもう大変。菌床は、若干の配合や栽培地の環境でも変化するようで、最初の一年は、ほとんど上手くいきませんでした。はっきり言って経営的にも苦しくて、もう辞めた方がいいのかと思ったときもありましたよ」と名護さん。本部さんに相談して菌床の配合を調整してもらったり、名護さんも朝から晩までつきっきりでしいたけと向き合った一年だったそうです。すると次の年には少しずつ改善し、三年目の今年(2020年)は、やっと満足のいくものが作れるようになってきたといいます。「車で片道1時間半もかけて、本部さんが奥さんと一緒に毎月様子を見に来てくれるんです。それが嬉しくて。一緒に頑張る人がいたからこそ続けてこられました」
名護さんの作るしいたけを試食させてもらったところ、柔らかくてもちもちとした食感がとっても美味。「かさの下のひだの部分が白いと、新鮮な証拠なんですよ。料理家の方からは、旨味成分が高いとも聞きました。これからきちんとデータをとってPRに繋げていきたいです」。
2020年3月からは、きのこの栽培地だけでなく菌床の生産地の記載も努力義務となりました。名護さんはそのどちらにも「沖縄県」の文字を入れています。
「生産者は自分が作ったものに対して、自信を持って提供してこそだと思っています。木を育て伐採する林業の人や、それをおがくずにする人、種菌を作る人。そして、菌床を生産する本部さんやそれを栽培する私の内、誰一人欠けても作ることができません。それぞれが自信と責任を持って、その役割に励んでいきたいです」
■南ヒラタケ生産組合
TEL:098-998-6715
■有限会社 ドリーム企画
TEL:090-7448-2135