沖縄の太陽と大地に育まれた
華やかで香り高いやんばる紅茶
提供/海辺の宿あまみく
紅茶の産地といえば、インドやスリランカなどをイメージしますが、実は日本も、紅茶の生産地の範囲を表す「ティーベルト」に入っています。中でも沖縄県は、紅茶の生産が盛んなインドのアッサム地方やダージリン地方などと緯度が近く、亜熱帯気候を活かした紅茶作りが行われていることで近年注目を集めています。沖縄本島の最北端、豊かな森が広がる国頭村の奥という地域で紅茶づくりをしているのが大城浩樹さん、純子さんご夫婦です。
「紅茶というと標高が高く、気温が低い地域で作られると思われがちなのですが、おいしい紅茶作りは、紫外線を浴びることも大事。奥は、沖縄本島の中でも特に気温が低くなる地域で、朝晩は霧が立ち込めます。ですが日中は南国の紫外線がしっかりと降り注ぐため、紅茶をつくる上でとても恵まれた場所だと思います」と話すのはご主人の浩樹さん。この地域の土壌は、北部特有の「国頭マージ」と呼ばれる酸性の赤土で、お茶栽培に適した性質なのだそうです。
大城さんの畑の面積は約700坪と、茶畑にしては小さめの規模。収穫時に知人に手伝ってもらう以外は基本的に自分たちだけで管理しているそう。2人は、同じく沖縄本島北部の今帰仁村で「海辺の宿 あまみく」を営みながら、週1〜2回、車で往復3時間ほどかけて国頭村の畑に通っています。「もともと紅茶が好きで、沖縄が紅茶の生産に適していると聞いて軽い気持ちではじめたんです。自分たちでお茶の栽培から宿のお客様へ飲んでもらうところまで見届けたいという思いから、生産量はあまり多くありません」と紅茶コーディネーターの資格を持つ奥様の純子さん。2人の作るお茶は「やんばる紅茶」としてあまみくや、親交のある小さなお店で販売しています。
紅茶や緑茶は、お茶の葉の発酵度の違いで分けられます。紅茶づくりの基本的な行程は、摘んだお茶を寝かせて水分を飛ばしたあとに茶葉をもみます。その後に発酵、乾燥を経てようやく仕上がります。本土では発酵のために専用の機械設備が必要なのですが、沖縄は、湿度・気温ともに茶葉が発酵しやすい条件が揃っているので、加工においても好環境なのだそう。
「紅茶のおもしろさは、たとえ同じ品種の木でも、茶葉を収穫する時期によって葉の大きさや硬さ、色合いが違い、味わいも変わってくること。気温がぐっと下がる冬や春は、太陽の光もやさしい。逆に、真夏は、強い紫外線をうんと浴びて葉がのびのびと育ちます」と純子さん。やんばる紅茶の春の一番茶は、花の香りが口いっぱいに広がり、軽やかなのが特徴。一方、真夏に仕込んだものものは、しっかりとした味わいなのに後に残らない爽やかな渋みが魅力です。
提供/海辺の宿あまみく
大きな茶畑は機械で収穫するのに対し、やんばる紅茶は全て手摘みで収穫しています。とれる茶葉の量は、大人4名で1日かけても5〜6kg程度。製茶するとその1/4程度にしかならないので、労力がかかる割りに収穫量はわずかです。「それでも自分たちがおいしいと思える紅茶を作りたくて、手摘みにこだわっています」と純子さんは言います。栽培をはじめて6年になる頃、腕試しにと国産紅茶グランプリへ応募したところ見事入賞。昨年、一昨年は「チャレンジ部門」で準グランプリを獲得し、着実にその良さが認められています。
「こうやって紅茶を作れるようになったのも、金川(かにがわ)製茶の比嘉さんの教えがあったおかげです」と話す浩樹さん。沖縄本島北部・名護市の比嘉さん親子が営む金川製茶は、国産紅茶グランプリ「チャレンジ部門」で3年連続グランプリを獲得している、日本を代表する紅茶づくりのパイオニア的存在。「比嘉さんは、自分たちで積み上げた技術も惜しみなく、栽培の技術や紅茶の味を見てくださったりと、1から僕たちに教えてくださった恩師です」。
「紅茶は、国産、海外産の違いはもちろん、たとえ同じ沖縄でつくられたとしても、機械での収穫か手摘みか、また加工工程によっても味が変わります。その場所の環境・気候が味に反映され、地域の特徴が出ると思うんです。沖縄には沖縄らしい紅茶がある。おおげさかもしれないけれど、いつか世界の紅茶の産地として、沖縄が認知されるようになったらいいなと思います」と浩樹さんは話します。
大城さん夫婦は日々紅茶作りに精を出す一方で、宿を訪れるお客様にも紅茶の魅力を届けています。「忙しい日々でも、紅茶を丁寧に入れてちょっとブレイクタイムするだけで心にゆとりが持てますよね。紅茶ってそんな力があると思うんです。うちの紅茶を飲んで、紅茶に興味を持ってもらえるのはもちろんですが宿から見えるこの海の景色とともに味わってもらえるのが嬉しいんです。一口飲むと、この海の風景が目の前に広がる・・・そんな紅茶を作っていきたいですね」と語るお2人からは、紅茶への愛が溢れていました。