たくさんの人においしさを届けたい
アテモヤに込めた中村果樹園の想い
南風原町にある中村果樹園では、アテモヤというトロピカルフルーツを栽培しています。アテモヤとは、東南アジアなどの熱帯地域で人気の「釈迦頭」と、ペルーやエクアドルなどの高地で育てられ、世界三大美果のひとつといわれる「チェリモヤ」というフルーツを交配させたもの。
沖縄に伝わったのは20年ほど前と言われており、生産量が少ないため、国内ではまだまだ珍しいフルーツです。アテモヤの特徴はなんといっても果肉が柔らかく、とても甘いこと。別名“森のアイスクリーム”と呼ばれており、マンゴーの糖度がおよそ15度に対し、熟したアテモヤはなんと20〜25度あります。
濃厚なのにヨーグルトのような爽やかな酸味もある味わいで、半分に切ってスプーンですくって食べるのが一般的です。トロピカルフルーツですが沖縄で旬を迎えるのは冬で、12月頃から収穫が始まります。
「アテモヤは元々、父が趣味で育てていました。食べてみるとそのおいしさにとても驚きました」と話すのは園主の中村京睦さん。当時サラリーマンだった中村さんですが、アテモヤを知ってから数年経っても栽培する農家がほとんど現れなかったため、それならばと中村果樹園を自ら立ち上げました。「たくさんの人にこんなにおいしい果物を食べてもらいたくて。父が育てていた40本ほどの木に加えて購入した苗木を育て、少しずつ規模を拡大しました」。沖縄では自生していない果樹のため自然受粉は難しく、そのため受粉は一つひとつ手作業なのだそう。「収穫までの作業を全て一人で行うのは大変ですが、アテモヤは基本的に年中収穫できる果物なので、自分なりに実がなる時期をコントロールしています」。
特に夏場は毎日の受粉や剪定作業、雑草取りなど、冬の収穫に向けて骨の折れる作業が多いといいます。中でも最も苦労するのは台風対策なんだそう。2年前の大型台風では、30本もの木々が枯れてしまったそうです。中村さんは台風の被害をなるべく小さくするために、以前は露地栽培だった農園に平張施設を導入しました。「ビニールハウスは温度を調整するのに適していますが強風には弱いんです。平張施設は防風対策に適している施設で、屋根が平らで建物全体が四角形なのが特徴です。側面を二重の防風ネットで囲んでおり、普段は内側ネットのみを使って風通しを良くしています。台風の際は外側のネットをおろして対処します」。他にも施設の外周を防風林で囲うなど、アテモヤを育て始めて8年間の経験を生かし、様々な対策を施しています。
育てたアテモヤは直売所へ出荷するだけでなく、オンラインショプでも販売しており、梱包や発送の手配も自ら行っています。「通販では県外の方からの注文が多いですね。発送後にいただくメールや直売所で直接会ったお客さんから、『おいしかったよ!』と言ってもらえるのが、何よりの励みです」。お客さんには一番おいしい状態でアテモヤを食べてもらえるよう、大切に育てるのはもちろん、収穫後の気配りも怠りません。アテモヤは常温で追熟させるフルーツなので、食べ頃が分かりやすいように、発送の際には中村さんお手製の食べ方ガイドを一緒につけているそう。「収穫した果実は、輸送する間に追熟が進むのを考慮して、当日または翌日には発送します。まだまだ認知度が高くないフルーツなので、化粧箱には“冷蔵厳禁”の表示をつけるなど、配送業者が間違った管理をしないように気をつけています」
「アテモヤをもっと広めるためには、ウェブでの紹介といった今のPRや気配りだけでは足りないと思っています」と話す中村さん。実は前職がシステムエンジニアという経歴の持ち主で、持ち前の知識と技術力を生かして将来はアテモヤの食べごろがわかるアプリの開発を考えているそうです。「追熟させる果物なので食べ頃が分かりづらいのですが、カメラでかざしてスキャンするだけで、食べごろかどうかが分かれば、消費者が手に取りやすくなると思うんです。観光で沖縄に来る方には、沖縄で食べてもらうのはもちろん、お土産としても注目してほしいですね」。県産トロピカルフルーツの代表として当たり前のように食べてもらえる日が来ることを夢見て、中村さんは日々、心を込めてアテモヤを育てています。