うるまの特産「照間ビーグ(い草)」の食材としての価値に触れる。
い草が食用に使えることを知ったのは2年前。乾燥してパウダー状にしたものを料理人向けの展示会で試食したのがきっかけでした。い草は畳の原料で、沖縄の方言「ビーグ」と呼ばれています。琉球王朝時代から現在に至るまで、人々の暮らしを支えてきたというビーグ。興味が沸いたのは畳以外の活用でした。
人気すぎて偽物まで出回った「照間ビーグ」
沖縄県うるま市の海岸沿いに位置する照間(てるま)集落は、畳の原料となるビーグ(い草)の生産が盛んな土地。沖縄のビーグ生産の95%を担っています。強い日差しを浴びてたくましく育ち、海の潮風によって害虫被害も少ない。農薬をほとんど使わずに育てられるため安心して使うことができ、生産者たちが労を惜しまず育てたビーグは耐久性にすぐれています。
「照間ビーグとして売りだせば高値が付くからと、偽物が出回ったこともあります」と話してくれたのは、うるま市い草生産組合の照屋 守輝(てるや もりてる)さん。
「照間ビーグは、畳になって2~3年後に本領を発揮します。経年変化で茶褐色になり、深みを増しつつもくたびれない。一方、照間ビーグをうたった外国産は、同じ2~3年でもほころびが生じて劣化します。畳屋にこれが照間ビーグだとわかるよう、今では畳表の出荷時に“目印”を織り込むようになりました」
8畳ほどの作業場には1台の製織機。スペースの半分を占めています。収穫後、乾燥させたビーグは、規定のサイズに揃えるため人の手で選別されます。製織機にセットする前にもう一度じっくりビーグの束を見つめる照屋さん。1本、2本と横に避けてはOKと判断したものを織機の左右にのせていきます。左右から交互に1本1本、見えない早さで縦糸の中を走っていく。そしてその動きをじっと見つめています。
「1畳分織るのに2,700本のビーグを使います。時間にして30分~40分。1時間に2枚できたら上々。たいがい途中で人に呼ばれたりして作業が止まっちゃうけど(笑)。織機を回している間は目が離せません。ほら、たまに短いものが紛れ込んでいるでしょう? 見つけると、織り目が乱れないよう1つひとつ、手直ししていく。それが品質に繋がるから」
織機が働いているあいだ傍らにじっと寄り添う。まさに、かかりきりの作業です。
家庭から和室が姿を消し、畳の需要が少なくなるなか、照間ビーグの評価は高く、生産が追い付かないほどの人気ぶり。畳以外にも、帽子に使われたり、キャンドルに使われたりと新しい活用方法で展開されています。乾燥して粉末にしたビーグパウダーも人気で、地元の料理人や菓子職人による商品開発も盛んです。
ビーグづくしのフルコース
うるま市のフランス料理店「レストランB.B.R」は、うるまの食をフランス料理の技法で伝えるレストラン。併設の「パティスリー R」では焼き菓子をはじめとしたビーグ菓子も人気です。オーナーシェフの瑞慶覧 篤(ずけらん あつし)さんは、県内のホテルやレストランで研鑽を積んだ後、フランスで1年間料理を学んで帰国。地元のうるま市で店を開きました。
特別に、ビーグのフルコースを作っていただきました。コースの中から、家でも作りやすいもの、完成度の高さに皆で驚いたもの、定番のビーグ菓子など4皿を紹介します。
ビーグパウダーにグレープシードオイルを合わせてドレッシングにしたサラダ。香りのおだやかなオイルを合わせるのがポイント。野菜の上に1本のビーグ、皿の縁にパウダー。ちょこんと付けて口に運べば、きな粉のような味わいと畳の香りがふわりと通り抜けます。
コトヒキ(ヤガタイサキ)のソテー。魚にビーグパウダーを振りかけてオーブンへ。魚から出た出汁に白ワインを加えて煮詰め、バターとシークヮーサーを加えてソースを作ります。冬瓜のリゾットの上にバリっと焼き上げたイサキをのせて。ビーグの香ばしさと、キュッと酸味が立つシークヮーサーのソースが好相性。
「ビーグを入れたからこその唯一無二の味!」と感激したバター。い草がしっとりと香り、乳製品と心地よく混ざり、パンにのせても香りが引き立ちます。目でも楽しめるよう畳を模した演出で。
ブランマンジェ、クッキー、ロールケーキ、クレープ、パウンドケーキ、ガトーショコラ。すべてにビーグを使っているというデザートの盛り合わせ。「乳製品との相性が良く、小麦粉と合わせて焼き上げるとざらつきがなくなります。難しいのは綺麗なうぐいす色を残すことですね」と、瑞慶覧さん。
テーブルの上のメニューには、「い草サブレディアマン」「い草ガレット」「ビーグカステラ」など開発品の案内が。店内外の看板などあちこちにビーグを伝える言葉を見つけることができます。食物繊維やマグネシウム、鉄、ビタミン、葉酸などの栄養成分が豊富でスーパーフードとしての効果もありますが、機能面の前に、おいしさを通して伝えられることで記憶に残ります。
足元の豊かさに気付いた土地は強い。
うるま市内では、自分たちの土地のものを積極的に使おうと料理人や菓子職人が、自身の想像力で商品開発を行っています。趣向をこらす商品がある一方で、極端にシンプルなものいい。うるま市のカフェ「hinata cafe」のメニューに見つけた「ぜんざい+ビーグパウダー」も新発見でした。
基本のぜんざいにトッピングでビーグパウダーをかけて。
自分たちの足元を見つめることで土地の知識を積み重ねていく。うるま市では「作る人」と「伝える人」が両輪となって、自分たちの食を繋いでいこうとする空気があります。足元は豊かだ――そう気づいた人たちは強い。
■うるまビーグ
株式会社料理通信社 広報担当
浅井 裕喜(あさい ゆき)
食情報を伝えるメディア、料理通信社の広報担当。Facebookやtwitter、instagramなどSNS公式アカウントの“中の人”でもあり、読者やファンの声を拾いながら密なコミュニケーションを図る。
◎雑誌『料理通信』:http://r-tsushin.com/magazine/
食情報を伝えるメディア、料理通信社の広報担当。Facebookやtwitter、instagramなどSNS公式アカウントの“中の人”でもあり、読者やファンの声を拾いながら密なコミュニケーションを図る。
◎雑誌『料理通信』:http://r-tsushin.com/magazine/
料理通信社
食のオピニオンリーダーたちのアンテナを刺激する雑誌『料理通信』の刊行、“食で未来をつくる・食の未来を考える”をテーマにしたWEBサイト「The Cuisine Press」、食を取り巻く社会課題に向き合うアクションを行う活動体「or WASTE?」を運営。